相続問題は、数字的な“勘定”だけでは解決しません。気持ちの部分、つまり“感情”の尊重が大事だと言えます。損得だけでは量れないものがあるのです。そして、相続争いの原因の多くは、「亡くなった人の意思が見えない」ことにあります。自分の意思を残しておかなければ、家族は迷い、主張し、争うことになります。あなたの意思を確実な形で残すことが、対策の第一歩なのです。改めて生前対策の進め方を復習しておきましょう。
【生前対策その①】法定相続人と法定相続分の確認
あなたに万が一のことがあった場合に、法律上相続人となれる人は誰と誰なのか? また、そのときの法定相続分はどの位なのか? まずはこれを間違いなく押さえておきましょう。そして、できれば、各相続人の遺留分も確認しておきます。遺留分とは、遺言等による行き過ぎた財産分けを防ぐために設けられた規程で、一部の例外を除いて法定相続分の1/2です。
【生前対策その②】財産の確認と評価
どのような対策がベストなのかは、家族や財産の状況によってまったく異なります。あなたにとってベストな対策を見極めるには、今ある財産の確認と整理を行なうことが最優先事項となります。
預貯金、不動産、有価証券等のプラスの財産は勿論、負債の確認も必要です。財産の確認が出来たら、おおまかな財産評価を行ないます。評価で難しいのは、不動産と自社株。ここは専門家の力を借りましょう。
【生前対策その③】遺産分割案の検討
どの財産を誰にどの位相続させるのか、その案を具体的に考えます。法定相続人や法定相続分という枠に捉われず、自由な発想でとりあえずのあなたの希望を描いてみましょう。この分割案がある程度思い描けないと、具体的な対策に乗り出せません。ご家族の状況も踏まえて、現実的な案を是非練ってみてください。
【生前対策その④】概算相続税の算出
相続税の概算を算出してみます。そもそも税金がかかるのかかからないのか、かかるとすれば幾ら位かかるのかが分かります。また、あなたのご希望の案通りに分割した場合に、誰にどの位の納税負担が発生するのかも具体的な金額として出すことができ、相続人毎の資金の過不足まで確認できます。
【生前対策その⑤】分割対策
財産の多寡に関わらず、あなたの希望に沿った遺産分けを行わせるためには、遺言書の作成が必須です。「子供が好きなように分ければいい」といって親が何の手も打たないケースが後を立ちませんが、これでははっきり言って親の無責任です。親が楽をすると、そのツケは親の死後に子供へまわってきます。遺産分割協議は難航します。必ず、家族に対する愛情と感謝の気持ちを添えた上で、遺言書であなたの意思を残してください。また、別け易い財産構成にしておくことや、生命保険なども上手く活用してある程度の資金を準備しておくことも忘れないこと。遺産分けも納税も、間違いなく現金があった方が楽だからです。そして、各相続人の遺留分を侵害していないかどうかの確認も必要です。
【生前対策その⑥】納税資金準備対策
相続税がかかりそうな場合は、納税資金の過不足を確認し、その準備をしておく必要があります。お金は急には増やせません。また、相続税の現金一括納付が困難で延納や物納の申請を検討すべきケースでは、やはりその準備を生前からやっておかなければ間に合わない場合も多くなっています。
【生前対策その⑦】節税対策
相続税がかかりそうな場合は、節税対策にも取り組みたいものです。ただし、あくまでも分割対策が最優先で、節税対策は一番後です。家族が相続争いでバラバラになったのでは、節税できたとしても意味はありません。
節税するためには、「相続人を増やすこと」「財産を少なくしておくこと」の2つがポイントです。相続人を増やすなら養子縁組の活用です。財産を少なくするなら、①使う、②贈与する、③評価の低い財産に組み替える、ことを考えます。
まずは現状の財産把握と評価、税額試算等を行なった上で、最初に分割対策を確実に行なうこと。そして、納税資金対策に入り、最後に節税対策です。
それが、幸せな相続を実現させるための正しい進め方なのです。